お金2.0 (佐藤航陽)

<読書メモ>

お金、感情、技術の三つのベクトルが未来の方向性を決める。

 

資本主義でお金が社会の中心になるにつれ、価値をどう提供するかを考えるよりもお金からお金を生み出す方が効率的だと気づく人が出てきます。

価値を効率的にやり取りする手段として生まれたお金が、やがてそれ自体を増やすことが目的に変わった。

 

経済はネットワークであり、ネットワークを構成している人を動かすのは欲求(本能的欲求、金銭欲求、承認欲求)である。

そしてこのネットワークは偏りがあり、不安定で不確実である。

 

生産活動をうまく回す仕組みが経済システムであり、経済システムは大前提として自己発展的に拡大していく仕組みである必要があります。

経済システムの要素

①報酬が明確である

インセンティブにも人間の生物的な欲求(衣食住や繁殖)、社会的な欲望(金銭欲、承認欲、競争欲)がある。

現代は3M(儲けたい、モテたい、認められたい)の三つの欲望を満たすシステムは急速に普及する。

②時間によって変化する

③運と実力の両方の要素がある(不確実性)

不確実性が全くない世界では想像力を働かせて積極的に何かに取り組む意欲が失われる。

④秩序の可視化

偏差値、年収、売上、価格、順位、身分、肩書きなど経済に参加するものが自分の立ち位置を把握する指標。

⑤参加者が交流する場がある

参加者同士が交流しながら助け合ったり、議論したりする場が存在することで、全体が一つの共同体であることを認識できるようになります。

 

私たち人間や動物の脳は欲望が満たされた時に「報酬系」と言われる神経系が活発化して、ドーパミンなどの快楽物質を分泌します。

生理的欲求はもちろん、褒められる、愛されるなど社会的欲求が満たされた時も報酬系は活性化します。

また、欲求が満たされた時だけでなく、報酬が期待できる状態でも快楽物質は分泌されます。

 

脳は非常に「退屈しやすい」「飽きやすい」性質を持っている。

脳は予測し難いリスクのある不確実な環境で得た報酬により多くの快楽物質を感じやすい。

 

快感が他者との比較によって高まる。

 

脳は疲れない器官だとされていますが、脳の指令によって動く身体は間違いなく消耗される。身体は休息が必要である。

 

経済は自然を模した仕組みである。

有機的なシステムの三要素

①自発的な秩序の構成

②エネルギーの循環構造

③情報による秩序の強化

 

自然の構造に近いルールほど普及しやすく、かけ離れた要素ほど普及しづらい。

Ex私利私欲や競争を否定した社会主義

 資本や人材や情報の流動が止まった日本は成長が止まる。(新陳代謝ができていない状況)

 

通貨を発行する存在が手にする利益を「シニョリッジ(通貨発行益)」と言い、国家の発行益になっている。

トークンエコノミーでは、トークンを発行する企業や個人がこの通貨発行益を享受できますが、同時に発行者はトークンをもって経済圏の参加者の利益を最大化する義務が発生します。

独自の通貨を発行してもそこに明確な利益がなければ誰もこないし、一度でも信用を失えばトークンを売却して経済圏からすぐ出て行ってしまう。トークンの発行者は優れた経済圏を作り、維持し続けなければいけません。

またトークンエコノミーは経済圏への参加者が増えれば増えるほど経済圏としての価値が上昇する「ネットワーク効果」が働く。

 

世の中に流通しているお金の9割は資産経済の方で、1割が消費経済で生まれている。

 

資本主義が考える価値あるものと、世の中の人が考える価値あるものの間には溝がある。

 

社員満足度を投資判断の材料にし始めている。

ものを扱わない企業にとって「人」が重要になっています。優秀な人が入社し、やりがいをもって働いてくれるかどうかが企業の成長を決める。

 

またものを扱わない企業で、財務諸表上の価値として認識されないのが「人材」と「データ」である。

 

価値の三分類

①有用性としての価値

②内面的な価値

 愛情、共感、興奮、好意、信頼など、個人の内面にとってポジティブな効果を及ぼす価値。

③社会的な価値

 個人ではなく社会全体の持続性を高めるような価値。

 

資本主義は有用性のみを重視してきたが、価値主義は内面的な価値や社会的な価値も重視する。

 

フォロワーが100万人以上いる人は“他者からの注目”という内面的価値を好きなタイミングで人脈、金、情報という別の価値に転換することができる。

 

内面的な価値の可視化

注目、興味、関心はSNSの普及により数値として認識できるようになった。

ただ、注目、興味、関心など特定の内面的な価値のために、共感や好意などの内面的価値や、治安や倫理などの社会的価値が犠牲になることがある。

 

ソーシャルキャピタルは個人が繋がってできている社会が持続的に良い方向に発展するために必要な「社会的ネットワーク」を「資産」と捉える考え方。

 

社会的価値のある取り組みは利益を出しやすくなってきてる一方で、利潤のみを徹底的に追及する事業は短期的な利益を求めすぎて消費者に避けられてしまうか、過剰競争に巻き込まれて長期的には収益を出しづらくなる。

 

著者は時間を通貨とする経済システムを作った。

様々な時間を売買、保有、利用できるマーケットプレイス「タイムバンク」。

時間が通貨や資本として良いのは経済の「新陳代謝」という点で優れているからです。時間は時間が経つほど保有量が減っていくので、時間がある若いうちに行動しようというインセンティブが強くなる。

 

人間は自分が生まれて時に既に存在したテクノロジーを自然世界の一部と感じる。15歳から35歳に発明されたテクノロジーは新しくエキサイティングなものでと感じられ、35歳以降になって発明されたテクノロジーは自然に反するものと感じられる。――ダグラス・アダムス

 

今後の働き方としては自分自身と向き合った上で、自分の情熱を発見し、自らの価値を大事に育てていくべきである。

 

お金は単なる道具である。

便利な道具だと思って、扱うときはそれがなくなることによっておきる困窮や不安などの感情と切り離して、冷静に判断する必要がある。

 

<書評>

著者は非常に確証バイアスが強い方で、広い視野が欠けている。

経済と自然と脳は同じ構造である、次の世代は「自動化」と「分散化」であるという思い込みに陥っている気もする。

未来なことなのになぜそんな確固とした自信があるか不思議に思う。

また皮肉にも筆者が本書で強く推す「ビットコイン」は熱がすぎ、普及までは至らなかった。

システムとして優れているだけではなく現実世界はもっとしがらみが多いことにも着目すべきだ。

また、著者は「ミレニアム世代は比較的に裕福になった世代で、お金や出世みたいなものにモチベーションを感じづらく、あの服が欲しい、もっと美味しいものが食べたいみたいな執着は生まれづらい。」とミレニアム世代を誤解しているように思う。ミレニアム世代でも富裕層の子息以外はブランドの服や美味しい高級レストランの食事は欲します。実際97年というミレニアムの次のジェネレーションZ生まれの私のインスタでも高級レストランでの食事やプレゼントでもらった高級品の投稿で溢れている。もちろん精神面での充足も求めますが、物欲は同じようにある。これは私の推測だが、筆者は自分が貧しい家から資産家になったため、金銭的な余裕が出て物欲が減ったのを時代がシフトしていると錯覚している。また日本人は特に親が比較的裕福でも子供に全てのお金をつぎ込んで甘やかすわけではないので、程度の違いはあれどミレニアム世代も同じように物質に執着する。

 

しかし、欠点はあるものの本書を読んで学んだもの非常に多かった。

読む価値がある一冊だと思います。